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岡山地方裁判所 昭和52年(行ウ)7号 判決

岡山県都窪郡山手村地頭片山195番地の1

原告

風早博志

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

豊田秀男

嘉松喜佐夫

関康雄

右輔佐人

田中孚夫

岡山県倉敷市幸町2番37号

被告

倉敷税務署長 松森暹

右指定代理人

馬場久枝

外7名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

第一請求の趣旨

一  被告が原告に対して,いずれも昭和50年12月9日付でした次の課税処分を取り消す。

1 原告の昭和48年分所得税の更正処分のうち総所得金額175万3,024円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分

2 原告の昭和49年分所得税の更正処分のうち総所得金額162万4,377円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

(当事者の主張)

第一請求原因

一  本件各処分の経緯

1 原告は土木事業を営むものであるが,昭和48年分及び昭和49年分の所得税につき,それぞれ別紙第一表(以下,別紙各表は表番号のみで表示する。)及び第二表各確定申告欄記載のとおり申告したところ,被告は同表各更正欄記載のとおりの更正処分(以下,「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,「本件各賦課決定処分」といい,これと本件各更正処分とを併せて「本件各処分」という。)をした。

2 原告は昭和51年2月5日,被告に対して,本件各処分に対する異議申立をしたところ,被告が同年5月8日これを棄却する決定をしたので,同年6月4日国税不服審判所長に対し審査請求したが,同所長は昭和52年8月31日これを棄却する裁決をし,同年9月21日その旨を原告に通知した。

二  本件各処分の違法性

1 更正理由附記の欠如

本件各更正処分には,いずれも全く理由の附記がない。更正処分は申告者に不利益を課する処分であるから,適正手続の上から当然理由が明示されなければならない。所得税法155条2項は青色申告者に関しそのことを注意的に規定したものであり,原告のような白色申告者であっても,本件各更正処分の更正通知書に理由の附記がないことは違法である。

2 税務調査手続の違法

被告の行った本件各処分に関する税務調査は,昭和50年5月頃から同年11月頃までの間,十数回に亙って執拗に続けられ,その態様も何らの事前の通知をすることなく,原告宅や原告の出先まで訪れて原告の生活や営業を妨害し,調査の必要性や理由の説明もなく,また原告の承諾を求めることなく原告の取引先を調査して原告の信用を害するなど,質問調査権を濫用したものであり違法である。

3 所得の過大認定

原告の所得は,いずれも多くとも申告額を超えないから,本件各処分は原告の所得を過大に認定した違法がある。

三  よって,原告は,本件各処分の取消しを求める。

第二請求原因に対する認否

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二1の事実のうち,本件各更正処分に理由の附記がないこと,原告は白色申告者であることは認めるが,その余の主張は争う。

三  同二2,3の主張は争う。

第三被告の主張

一  税務調査手続の適法性

1 原告の昭和48年分及び昭和49年分の所得税確定申告は,事業所得金額が同業者の申告に比べて低調であり,かつ,事業所得金額のみ記載しただけで収入金額及び必要経費の記載がないなどのため,右事業所得金額が適正であるか否かを調査する必要があった。

2 そこで,被告の係官は,右調査にあたり,原告に対し,調査理由を開示し,調査への協力を求めて再三,再四原告宅に赴き,右事業所得金額の説明及び関係帳簿書類等の提示を求めた。しかしながら,原告は,総社民主商工会(以下,「民商」という。)と相談するとか,事前通知がないとか,調査理由の開示要求に被告が応じないとかなど述べ,これと多忙であることを理由に調査になかなか応じず,また,事前に打ち合わせた日に原告宅に赴いた係官と面接に応じた際にも,民商の職員らを立ち合わせ調査をできない状態にし,前記の説明や関係帳簿等の提出をせず,右調査に全く協力しなかった。そこで右係官はやむなく原告に対し,反面調査をする旨伝えて同調査を行った。

3 以上のごとく本件税務調査は原告がこれに協力しないため,被告の係官において原告宅等へ多数回臨場し,また取引先への反面調査をせざるをえず,必然的にその期間も長時間に及んだものであって,被告の右税務調査手続は,適法に行われたものであり,いささかの違法も存しない。

二  昭和48年分の総所得金額

原告の昭和48年分の総所得金額は第三表の被告主張欄記載のとおり590万8,960円であるから,その範囲内で原告の総所得金額を459万6,516円と認定した本件更正処分は適法である。即ち,被告主張の右総所得金額を算出した根拠は,第三表及び同表で引用する第四表に示すとおりで,同各表中争いのある項目につき詳論すればつぎのとおりである。

1 収入(売上)金額 4,063万1,018円

(一) 有限会社風早興業 2,678万5,288円

原告が有限会社風早興業から下請をして取得した昭和48年分の工事代金等であり,次の(1)(2)の合計である。

(1) 有限会社風早興業の総勘定元帳の手形・小切手による支払状況等から判明した同社への売上高 2,542万2,796円

(2) 右以外の工事代金 136万2,492円

原告は当時開業直後で,生コン等の資材の入手が困難であったので,同社に,原告のため材料を仕入れその仕入代金を原告に代って立替払いしてもらっていたため,後日,右立替金と原告へ支払うべき右工事代金とを相殺処理していた。そのため,右(1)の総勘定元帳の手形小切手の支払状況から判明せず,審査請求段階で右(1)の売上高外に存することがわかった。

(二) 有限会社八重建設 32万9,300円

昭和48年3月から4月にかけ栗石,砂等212m3及び生コン等を販売した売掛代金である。

(三) 山陽道路株式会社 63万2,000円

(四) 株式会社和田組 200万3,600円

(五) 株式会社土井建設 1,028万8,883円

(六) 矢吹工業株式会社 52万5,380円

(七) 川田暁 3万7,767円

(八) 川口明男 2万8,800円

以上合計 4,063万1,018円

2 材料費 1,192万6,091円

(一) 有限会社風早興業分 381万8,616円

なお,原告は有限会社風早興業分の材料費を496万6,116円である旨主張するが,その中には,昭和49年分の収入に対応する材料費114万7,500円が含まれている。

(二) その他 810万7,475円

3 荷造運賃 20万4,700円

左記以外は支払の証拠資料がない。

(一) 片山良雄 7万9,300円

(二) 株式会社神原重機興業 8万0,400円

(三) 有限会社川上運送店 2万0,000円

(四) 小倉貞義 2万5,000円

4 消耗品費 195万9,139円

なお,右金額の中には岡田商店に対する支払額5万5,810円が含まれている。

右金額以外は,支払の証拠資料がなく経費と認めることができない。

5 福利厚生費 44万2,290円

左記以外は支払の証拠資料がない。

(一) 従業員慰安 12万0,000円

(二) 蒲生被服工業 8万8,700円

(三) 山陽 5万6,500円

(四) 山本商店 3,540円

(五) 山地屋商店 5,700円

(六) 後楽 12万4,650円

(七) 山陰松島遊覧 6,600円

(八) 砂丘センター,砂丘リフト 6,600円

(九) 魚屋 3万0,000円

なお,原告の主張するホームステレオ,ステレオパック等は,家事関連費(所得税法45条1項,同法施行令96条1号)であって,経費と認めることができない。

6 減価償却費 225万2,016円

なお,原告は,昭和47年9月に,原告の長女万寿美名義で購入した軽貨物自動車の減価償却費10万4,895円を加算すべきだと主張するが,右貨物自動車の取得の事実はない。

7 雑費 7万6,550円

左記以外は支払の証拠資料がない。

(一) 車両取得の諸経費 3万8,150円

(二) 総社電報電話局 1万7,400円

(三) 岡山県商工団体連合会 1,000円

(四) 民商 2万0,000円

8 外注費 558万7,070円

(一) 光畑組 4万6,437円

(二) その他 554万0,633円

9 貸倒損失 0円

貸付金の貸倒の証拠資料がない。

三  昭和49年分の総所得金額

原告の昭和49年分の総所得金額は第五表の被告主張欄記載のとおり337万0,776円であるから,その範囲内で原告の総所得金額を328万1,517円と認定した本件更正処分は適法である。すなわち,

1 被告主張の右総所得金額を算出した根拠は,第五表のとおりで,同表中争いのある必要経費(工事原価及び一般経費…以下同じ)は,実額である同表中の収入金額に同業者5件の平均経費率87.1%(小数点二位以下を切上げ,第六表のとおり。)を乗じて推計計算をした。

2 右の経費率の推計は,原告が関係帳簿書類等を提出しないので実額がわからず,やむなく行ったものであり,また,その同業者の経費率の算出にあたっては左記の①ないし⑦の条件下に類似の同業者を無作為,かつ,機械的に抽出し,抽出した類似業者につき,青色申告決算申告書等に基づき,減価償却の計算を定額法に直す等,白色申告者である原告の所得計算に合致するよう修正を加えたうえ,その必要経費率を求めているので,合理性を有するものである。

① 個人(法人でない)の業者で,事務所を倉敷税務署管内及び近隣署管内に有する者

② 土木工事のうち,基礎工事を主体としている者

③ 下請業者であって,直接請負工事がない者

④ 収入(売上)金額による事業規模が原告と類似(原告の収入金額の50%ないし150%程度以内)している者

⑤ 青色申告書により所得税の確定申告をしている者

⑥ 年間を通じて事業を継続している者

⑦ 課税処分につき,不服申立,訴訟が継続していない者

第四被告の主張に対する認否と反論

一  被告の主張一の事実は否認する。

二  被告の主張二につき

第三・四表の各項目に対する原告の認否は右各表中の原告の認否欄記載のとおりである。

1 被告の主張二1(収入金額)につき

(一)の有限会社風早興業に対する売上金額は,(1)の2,542万2,796円のみである。(2)の136万2,492円は右(1)の中に含まれている。

(二)の有限会社八重建設に対する売上金額は否認する。

(三)ないし(八)は認める。

したがって,収入金額の合計は3,893万9,226円である。

2 同二2(材料費)につき

(一)の有限会社風早興業分の材料費は496万6,116円である。

(二)は認める。

したがって,材料費の合計は,1,307万3,591円である。

3 同二3(荷造運送賃)につき

(一)ないし(四)の各支払先及び額は認めるが,その他に,中山幹造に対する支払67万5,000円を加算すべきである。

したがって,荷造運賃の合計は,87万9,700円である。

4 同二4(消耗品費)につき

消耗品費として被告主張のとおり最低195万9,139円支出したことは認めるが,その他に,岡田商店に対する配線コード,電動工具代の支払額3万円(岡田商店に対する支払額は被告主張分と合わせて8万5,810円である。)及び事務費として1か月3,000円の割合による3万6,000円を加算すべきである。

したがって,消耗品費の合計は,202万5,139円である。

5 同二5(福利厚生費)につき

(一)ないし(九)の各支払先及び金額は認めるが,その他に次の金額を加算すべきである。

(一) 被告の主張の(六)ないし(九)は,従業員慰安旅行に要した費用であるが,右慰安旅行費として,他に11万2,150円を支出している。

(二) 従業員茶菓子代 3万2,150円

(三) ホームステレオ 5万円

(四) ステレオパック 4万円

(三)(四)は従業員の娯楽用として購入したものである。

したがって,福利厚生費の合計は,67万6,590円である。

6 同二6(減価償却費)につき

減価償却費は少なくとも225万2,016円であることは認めるが,その他に,昭和47年9月に,原告の長女万寿美名義で購入した軽貨物自動車の減価償却費10万4,895円を加算すべきである。

したがって,減価償却費の合計は,235万6,911円である。

7 同二7(雑費)につき

(一)ないし(四)の各支払先及び金額は認めるが,その他に次のような合計44万4,225円を加算すべきである。

(一) 組合費 2万8,000円

(二) 建設等許可申請費 5万0,000円

(三) 神棚 2万7,000円

(四) その他,従業員に各種免許,資格を取得させるために支払った研修費等

したがって,雑費の合計は,52万0,675円である。

8 同二8(外注費)につき

(一)の光畑組に対する外注費は合計9万6,437円である。

(二)は認める。

したがって,外注費の合計は,563万7,070円である。

9 同二9(貸倒損失)につき

貸付金等の貸倒損失11万0,598円が発生した。

被告の主張三につき

第五表の各項目に対する認否は,右表中の原告の認否欄記載のとおりであり,必要経費のみ否認する。

同表中の収入金額は実額であること,必要経費算出のため実額である収入金額を基にした推計計算の必要性があることについては認めるが,被告のした推計計算の合理性を争う。右推計計算には,次のとおり合理性がない。

1 原告は土木工事業を営んでいるが,土木工事といっても規模の大小,業種等種々雑多であり,経費率に影響を及ぼす要素は少なくない。そして,少なくとも,左の(一)ないし(四)の要素において「類似」であることが要請されるところ,被告の主張によってはこの点が明らかでなく,推計の合理性が認められない。

(一) 営業年数

営業年数の長短は,経費率に大きな影響を及ぼす。新規開業の場合,設備投資のために経費が増大したり,比較的利益の少ない仕事を請負わざるを得ないといった事情により経費率が高くなる。原告は,昭和47年に事業を開始したばかりでまだ日が浅く,経営が安定するまでの間の経費率は当然高い。

(二) 従業員数

土木事業においては,経費のうち労務費が占める割合が最も大きく,これは福利厚生費,雑費の増大をもたらす。原告は,昭和49年当時従業員15名であったが,比較同業者の従業員数は不明である。

(三) 元請,下請の別

原告は,工事を施主から直接受ける元請業者ではなく,零細な下請(孫請)であって,直接受注できるかどうかは利益率,経費率に極めて大きな差異をもたらす。

(四) 工事の種類,規模

原告の工事は,建築,基礎,道路,河川の改修などであるが,規模は小さく1件当たりの単価も低い。小規模の工事を数多く行うのと大規模の工事を行うのとでは利益率と経費率に大きく影響する。

2 ちなみに,原告は,昭和49年7月1日法人成して有限会社山手建設になり,青色申告法人となったが,同社の昭和49年7月1日から昭和50年8月31日までの間の収入金額及び必要経費の実額(所得税法による計算に引き直したもの)によってその必要経費を計算すれば,その率は,94.1%であり,したがって,昭和49年分の収入金額に右経費率を乗ずれば,原告の同年分の必要経費は2,304万0,161円となる。

(証拠関係)

証拠関係は本件記録中の書証目録・証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  更正理由の附記の欠如の違法の主張について(請求原因二1)

本件各更正処分の通知書に処分理由が附記されていないこと,原告はいわゆる白色申告者であることは,当事者間に争いがない。

ところで,所得税法155条2項は青色申告者について更正した場合その通知書に更正の理由を附記すべきものと規定するが,白色申告者について更正した場合は所得別の金額を附記するだけで足りるとしている(同法154条2項)。

右各法上の趣旨は,一方,比較的多量の事案を短時間で処理しなければならない更正処分について,すべての処分に理由の附記を要求することは課税の能率,徴税事務の円滑等の見地から不適切であることを考慮し,他方,帳簿備え付け,記帳,確定申告における明細書添付等の義務を負う青色申告者を優遇し,青色申告の普及を促進する点をも考慮した結果,更正処分の際の理由附記を青色申告に限定して要求したものと解せられる。

したがって,白色申告者である原告に対する本件各更正処分に理由を附記しなかったことは何ら違法となるものではない。

三  税務調査手続の違法の主張について

(請求原因二2,被告の主張一)

1  証人富田操の証言,同証言により成立を認める乙第6号証によれば,被告の主張一1の事実のほか,次の事実が認められる。

(一)  倉敷税務署の調査担当職員富田操らは,昭和50年5月7日,調査のため原告宅や工事現場を訪れたが不在で原告に会えず,原告の家族に同月8日再度調査のため来訪する旨伝言を依頼していたところ,同日(7日)午後5時頃,被告から,8日は都合が悪い,5月12日午前中にして欲しい旨の電話があった。

(二)  そこで,富田操らは,同月12日午前,原告宅を訪れ,原告に対して,昭和49年分,必要に応じて昭和49年以外の年分についても税務調査する旨,及び昭和49年7月1日原告が有限会社山手建設を設立した際の資産の引き継ぎ関係,原告の自宅の新築の状況,申告書の所得金額(申告書には所得金額のみ記載されていた。)の内容等の説明を求めたが,原告から調査の事前通知がなかったとの抗議や調査理由の開示を求められ,調査につき協力が得られなかった。

(三)  その後,富田操は,同月16日から同年8月21日までの間,十数回に亙り,原告宅を訪ねたり,電話したりして調査につき協力を求め,そのうち6回(内2回は調査日時を事前に打ち合わせ済み)は,原告宅で,原告と面接し,帳簿書類の呈示や申告内容の説明を求めたが,再三今日は都合が悪いと断わられたり,或いは,事前通知がなかった旨の抗議を受けたり,調査理由の開示,調査事項の限定を求められたりして,いずれも調査に協力が得られず,また協力を得られそうにもなかった。

(四)  そこで,富田操は,やむなく同年7月16日反面調査を一部開始し,最終の右同年8月21日の調査の際,原告に対し,このままでは調査は進展しないので,反面調査等をする旨伝え,その頃から,原告の反面調査等を実施した。同反面調査は通常行われる態様で実施されている。

以上の事実が認められ,原告本人の供述中右認定に反する趣旨の部分は信用できず,他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2  ところで,所得税法234条1項は,国税通則法24条による更正処分等一定の処分を行う際になされる所得税の調査について,税務職員は質問検査をなしうる旨規定しているところ,右質問検査の細目については実定法上なんら規定されていないから,質問検査の範囲,程度,時期,場所等実施の細目については,質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当と認められる範囲内である限り税務職員の合理的な選択に委ねられていると解せられる(最高裁判所第三小法廷昭和48年7月10日決定,刑集27巻7号1205頁参照)。

したがって,税務調査が社会通念上相当な範囲内でなされる限り,その事前通告や調査の具体的必要性,理由の開示がなかったとしても,或いは,反面調査につき被調査者の同意を得なかったとしても,その税務調査が違法となるわけではない。

これを,本件についてみるに,前記認定のとおり,被告には,原告の昭和49年分等の所得税確定申告書につき事業所得金額を調査する必要があったこと,富田操らは,第1回目の調査は事前通告なしに赴いているものの,第2回目の調査は原告の希望した日に赴いていること,その際,概括的ではあるが調査対象を説明していること,その後,何回かに亙って原告宅に赴いたが,原告の協力が得られず,やむなく最後に反面調査をする旨伝えてその頃からこれを実施していることなどが認められるのであって,原告主張の調査の事前通告がなかったこと,調査の具体的必要性や理由の説明がなかったこと,原告の同意を得ずして反面調査をしたことをもって,原告に対する税務調査が社会通念上相当な範囲を逸脱しているものとは到底解されない。してみれば,そもそも税務調査手続の違法が課税処分自体を違法ならしめることがあるかなどについて判断を示すまでもなく,本件各処分は右の点に関し手続上は適法である。

四  昭和48年分の総所得金額について

第三表番号4ないし7,第四表番号2,4ないし7,12の各被告主張欄の金額は当事者間に争いがない。

そこで,以下,第三・四表中の争いのある項目につき順次検討することとする。

1  売上(収入)金額

(一)  有限会社風早興業に対する売上金額

有限会社風早興業に対する売上金額が少なくとも2,542万2,796円存在すること(被告の主張二1(一)(1))は当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第17号証,原本の存在と成立に争いのない乙第11号証の1ないし4,いずれも証人渡辺勝正の証言により成立を認める乙第18号証,第21号証の1・2,同 証言により原本の存在と成立を認める乙第11号証の5,同証人の証言及び原告本人の供述(後記信用しない部分を除く。)に弁論の全趣旨を総合すれば,被告は異議決定の段階では,有限会社風早興業を反面調査し,昭和48年8月31日までの分は,同社の買掛帳が紛失していたので,同社の総勘定元帳の手形・小切手による支払金額から,同年9月1日からの分は,同社の買掛帳の記載から,原告の有限会社風早興業に対する売上額2,542万2,796円を把握していたこと,ところが,有限会社風早興業は原告の元請先であり,原告が下請した工事につき,原告において開業後まだ日が浅く材料の入手が困難であったため,同社が原告のため材料を仕入れ,その材料代金を原告に代って立替払いし,後に,右立替金と原告に支払うべき昭和48年分の工事代金とを相殺処理した分が同年8月末日までに,136万2,492円存在したこと,右相殺処理分は,現実の支払いがなかったため,右手形・小切手による支払金額から把握した売上金額2,542万2,796円に含まれていなかったこと,右相殺処理分が判明したのは,審査請求の段階で原告が国税不服審判所に材料費立証のため提出した資料(乙第11号証の1ないし4,第17号証)であったこと,右材料費については被告の主張二2(一)の有限会社風早興業分の材料費381万8,616円中に含まれていることが認められ,原告本人の供述中右認定に反する部分は,右相殺処理分は原告の自認する売上金額2,542万2,796円に含まれている旨結論を述べるのみでその根拠につき具体性がなく採用することができず,他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば,原告の有限会社風早興業に対する売上金額は2,542万2,796円と136万2,492円との合計である2,678万5,288円であること明らかである。

(二)  有限会社八重建設に対する売上金額

原本の存在と成立に争いのない乙第12号証の1・2,証人渡辺勝正の証言により成立を認める乙第22号証,同証言により原本の存在と成立を認める乙第13号証,同証人の証言によれば,原告は,昭和48年3月から4月にかけ,外注先である有限会社八重建設に対し,栗石,砂等212m3及び生コン等を合計32万9,300円で販売したこと,同年8月10日,原告は有限会社八重建設に対し支払うべき外注費42万3,500円から右栗石等の代金32万9,300円を控除した9万4,200円を同社に現金で支払ったこと,右有限会社八重建設に販売したもののうち,栗石,砂等200m3は,角田秀夫から26万8,000円で仕入れたものであり,これらの分の有限会社八重建設に対する販売代金は28万8,000円であって,原告は有限会社八重建設に対する販売で利益を得ていることが認められ,右認定に反する原告本人の供述,同供述により成立を認める甲第1号証は,前記各証拠に照らし信用できず,他に右認定を覆すに足る証拠はない。

また,前記乙第18号証,原本の存在と成立に争いのない乙第15号証によれば,右角田秀夫からの仕入代金については,被告の主張二2(二)の材料費810万7,475円中に含まれていることが認められる。

右各認定事実によれば,原告の有限会社八重建設に対する売上として,32万9,300円存在したこと明らかである。

(三)  被告の主張二1(三)ないし(八)の事実(その売上総額は,1,351万6,430円である。)は当事者間に争いがない。

以上(一)ないし(三)の合計4,063万1,018円が昭和48年分の総収入金額となる。

2  材料費

(一)  有限会社風早興業分

被告は有限会社風早興業の昭和48年分の材料費は381万8,616円のみである旨主張し,その他に材料費114万7,500円が存するが,それは昭和49年分の収入に対応するものであるというところ,原告はこれを争い,右材料費114万7,500円部分も昭和48年分の材料費である(昭和48年分材料費合計は496万6,116円)旨反論するので検討する。

前記乙第17号証,第21号証の1,弁論の全趣旨により成立を認める乙第23号証の1・2,第24号証(第23号証の1・2は原本の存在及び成立も認める。),証人渡辺勝正の証言及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認定・判断することができる。

(1) 乙第17号証は,原告から国税不服審判所に対し原告の昭和48年分の有限会社風早興業関係の月別の材料費の立証のために提出された書面であって,その合計額は496万6,116円であり,本訴での原告の主張額と一致する。

しかるに,被告が反面調査によって調べた有限会社風早興業備え付けにかかる同社の原告からの買掛帳である乙第23号証の1・2によれば,乙第23号証の1に昭和48年12月28日谷本工業岡山土地倉庫鉄筋代44万3,500円を,同号証の2に昭和49年1月10日土地倉庫生コン代70万4,000円をそれぞれ支払金額欄に各計上しており,その合計額は114万7,500円であって,これが右乙第17号証の合計額496万6,116円の一部をなす昭和49年1月分の114万7,500円の記載と一致する。

したがって,右114万7,500円は,原告が有限会社風早興業から下請した谷本工業岡山土地倉庫の工事に関し,有限会社風早興業が原告のため購入して立替払いしていた材料代であると考えられる。

(2) 他方,

イ 右の乙第23号証の1・2によれば,有限会社風早興業は原告に対して支払う右谷本工業岡山土地倉庫の工事代金(仕入金額)として,昭和49年1月10日に270万円を,同年2月5日に7万9,000円,96万4,000円,22万2,368円及び16万0,500円をそれぞれ計上している。そして,これらを含めた右乙第23号証の1・2記載の同年1月,2月分の工事代金(仕入金額,1月分計341万5,980円,2月分391万5,105円)は被告作成にかかる原告の昭和49年分の収入金額の調査書である乙第24号証の昭和49年1月分,2月分の有限会社風早興業からの収入金と一致する。

したがって,谷本工業岡山土地倉庫関係の収入は,原告の昭和49年分の収入であり,被告においてもそのように取り扱い後記原告の昭和49年分の有限会社風早興業からの収入金についての被告主張金額(第五表番号3)にこれを含めており,原告もこれを争っていない。

ロ なお右乙第23号証の1の昭和48年12月分の工事代金(仕入金額)合計486万7,920円の中には,谷本工業岡山土地倉庫の工事代金は含まれていないところ,同金額は国税不服審判所作成にかかる原告の昭和48年分の有限会社風早興業からの収入金の月別調査書である乙第21号証の1の昭和48年12月分の486万7,920円と一致しているなどから原告は谷本工業岡山土地倉庫の工事代金を,昭和48年分の収入として計上していない(当然,有記1(一)認定の有限会社風早興業からの収入金に含まれていない)ことがわかる。

以上のとおり,認定判断することができ,これを覆すに足る証拠はない。

そうすると,右谷本工業岡山土地倉庫関係の収入金は昭和49年分の収入に該当すると考えられ,右材料費114万7,500円は,その工事原価を構成するものであるから,昭和48年分の経費ではなく,昭和49年分の経費であると判断することができる。

したがって,昭和48年分の有限会社風早興業分の材料費は乙第17号証の総額から右114万7,500円を控除した381万8,616円となる。

(二)  その他の材料費は810万7,475円であることは当事者間に争いがない。

以上,(一),(二)の合計1,192万6,091円が材料費の総額である。

3  荷造運賃

被告の主張二3(一)ないし(四)の各支払及び額は当事者間に争いがない。

原告は,この他に,中山幹造に対する支払額67万5,000円を加算すべきである旨主張するので検討する。

右原告の主張に副う証拠として,原告本人の供述及び同供述により成立を認める甲第2号証が存在する。しかしながら,原告は当初中山幹造に対する支払額を1万5,300円と主張しており,右甲第2号証の金額は67万5,000円であって,右当初主張額と大幅に異なること,甲第2号証は支払われたとする時期から約5年経過後作成された書面であるうえ,弁論の全趣旨により成立を認める乙第25号証や原告本人の供述によれば,甲第2号証は中山幹造において請われるまま,帳簿等の根拠もなしに,署名押印した書面であることが認められること等に照らし合わせれば,右各証拠は採用できず,他に原告において右主張を認めるに足る証拠を提出しない以上,中山幹造に対する支払額はなかったと推認するのが相当である。

よって,荷造運賃費の総額は20万4,700円となる。

4  ところで,他の争いのある必要経費である消耗品費(第四表番号8),福利厚生費(同表番号9),減価償却費(同表番号10),雑費(同表番号11),外注費(同表番号13),貸倒損失(同表番号14)につき,いずれも原告の主張が認められるとしても,必要経費の総額は,第四表当裁判所の認定欄記載のとおり3,549万0,900円となり,昭和48年分の総所得金額は第三表の当裁判所の認定欄記載のとおり489万9,042円となる。

5  したがって,昭和48年分の更正処分は,右認定の総所得金額の範囲内でなされたものであるから,原告の所得を過大に認定した違法がある旨の主張は理由がない。

五  昭和49年分の総所得金額について

1  第五表中の収入金額(同表番号2ないし8),特別経費(同表番号10ないし13),農業所得金額(同表番号14),給与所得金額(同表番号15)の被告主張金額は当事者間に争いがない。

2  必要経費につき

(一)  第五表中の収入金額は実額であること,必要経費算出のため右収入金額を基にした推計計算の必要性があることについては当事者間に争いがなく,証人富田操の証言,いずれも同証言により成立を認める乙第1ないし第3号証の各1ないし3,第4号証の1ないし4,第5号証の1ないし3,第7ないし第10号証及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1) 被告は原告の類似業者として,被告の主張三2の①ないし⑦の条件を設定し,各条件に該当するものを無作為かつ機械的に選び出したところ,全部で第六表同業者欄記載のアないしオの5業者が抽出され,その他に右条件をみたす者はいなかった。

(2) 抽出された右類似5業者につき,その各昭和49年分所得税青色申告決算書等に基づき,収入金額を拾い,減価償却の計算を定額法に直すなど白色申告者である原告の所得計算に合致するよう修正を加えて必要経費を求め,それらの係数により5業者の平均必要経費率を算出すると,その率は87.1%(小数点二位を切上げ)となる。

以上の事実が認められ,右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  次に,富田操の証言及び原告本人の供述によれば,原告は,倉敷税務署管内において,道路,水路,建物基礎工事を主体に,専ら下請工事をしている土木業者であること,原告は昭和49年7月1日,今までの個人経営を有限会社山手建設という法人組織に改めたこと,被告の主張三2の①ないし③の条件でもって,事業の同一性の特定に欠けるところがないことが認められ,また,抽出された業者ともその売上額から対比(対比にあたっては,原告は年度途中の7月1日法人組織に変更しているから,第五表番号2の収入金額を二倍を目処に対比する必要がある。)するに同④の事業規模の類似性を満たしていると考えられる。

また,前記(一)(1)認定のごとく同業者の抽出が無作為,かつ,機械的に行われており,しかも,前記⑤ないし⑦の条件を設定することにより抽出された資料の正確性も担保されているということができる。

なお,第六表中ウの同業者は,証人渡辺勝正の証言及び同証言によって成立を認める乙第20号証によれば,昭和48年分と昭和49年分の間において売上金額・差益金額がそれぞれ約二倍に増加しており,また,外注工賃の占める割合が他の業者と比べ相当高いことが認められるが,他方この程度の差異は,同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異であるものと認められるので,同業者の平均値算出の基礎となしえないほどの偏差ではなく,平均値の中で捨象しうるものと判断する。

してみれば,このような類似業者の必要経費率による推計計算(以下「本件推計」という。)は合理的であると判断することができる。

(三)  これに対し,原告は「土木工事といっても規模の大小,業種等種々雑多であり,経費率に影響を及ぼす要素は少なくない。そして,少なくとも,営業年数(原告の営業年数は短い。),従業員数,元請下請の別,工事の種類,規模(一件当たりの工事単価)等の要素において「類似」であることが要請されるところ,被告の主張によってはこの点が明らかでなく本件推計の合理性が認められない。」旨主張する(被告の主張に対する認否と反論三1)ので検討する。

(1) 右原告の主張のうち,元請下請の別,工事の種類は,前記(一)(1)認定の被告の主張三2の②③のとおり本件推計に当たり類似業者抽出の条件としているのであって,この点に関する原告の主張は理由がない。

残る問題は,同①ないし⑦の条件の類似の他に,更に営業年数,従業員数,工事の規模(一件当りの工事単価)についても「類似」であることが要請されるかどうかであるが,そもそも,同業者間の平均率による推計の場合,その推計の基礎となる各同業者の営業状況に差があるのは当然のことであって,その平均値を求めるのが本件推計方法の目的なのであるから,推計方法が業種の同一性,営業規模の一応の類似性及び平均値算出過程の整合性等,推計の基礎的要件に欠けるところがない以上,納税者の個別的営業条件のいかんは,それが当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り,これを斟酌することを要しないものと解すべきである。

(2) そこで次に,営業年数の点について案ずるに,業種,営業形態,営業規模の類似性の他に,この類似性まで要求すると,仮に事務所所在地の近隣性の要件をゆるめても,平均値をとりうるほどの類似業者数を抽出しうるか問題の存するところであるうえ,証人富田操及び同渡辺勝正の各証言によれば,開業後年数が短いからといって一概に同業者より多額の経費を要するものともいえないことが認められ,証人田中孚夫の証言及び同証言によって成立の認められる甲第22号証によれば原告の場合も必要経費率は営業年数とは関係なく変動していることが認められるのであり,更に原告本人の供述によれば,原告は学校卒業後昭和33・4年頃まで,花莚製造業の傍ら,土工として土木の仕事に従事し,その後,昭和44年12月までは,土木業を営む株式会社和田組において,建物の基礎工事等の現場監督に従事していたこと,その後,病気療養期間を経たのち,昭和46年夏頃,独立して,土木業を始めたことが認められ,原告は営業年数は短いものの,土木業についてはかなりの経験を積んでいたと考えられるし,また,原告の昭和48年と昭和49年の受注先(前記四1認定事実と,当事者間に争いのない第五表番号3ないし8)を比べてみれば,その殆んどが同一であって,それから請ける受注量の占める割合も共に高く,これと証人富田操の証言によれば,原告の経営は比較的安定していたことが認められるのであるから,以上のことを総合考慮すれば,原告についての営業年数が短いからといって,同業者より経費率が高いとは一概にいえず,したがって,原告に本件推計を不合理ならしめる程度の顕著な特別事情があるとは解しえない。

なお付言すれば,第六表中前記ウの同業者は,前掲乙第3号証の1ないし3によれば,昭和48・9年ごろに相当多量の車両,機器類を購入しており営業開始がそのころ近くである可能性が認められるところ,果たせるかな右同業者の昭和49年分の必要経費率は92.51%(第六表)と幾分効率を示している。しかしながら前掲乙第20号証及び証人富田操の証言によれば,右同業者は,昭和49年分において外注工賃を激増させており,それが主たる原因となって,その前年の経費率(88.23%)より,右のごとく経費率が増加したものと推測されるのであり,営業年数が浅い点でそのような高率を示しているものとは認められない(そうだとすれば,右ウの同業者の高い必要経費率をも加えて平均化して得られた本件87.10%の経費率は,原告に有利に働くものでこそあれ,不利益には働いていない。)。

(3) 更に,従業員数,工事の規模(一件当りの工事単価)についてであるが,前記のとおり,営業規模の類似性で同業者を抽出することにより,同業者間に通常存する従業員数,工事単価等の差異は包摂され平均化されていくと考えられるのであって,原告の従業員数工事単価等の個別的営業条件が,推計を不合理ならしめる程度の顕著なものであったことを認めるに足る証拠はない(かえって,証人渡辺勝正の証言によれば,第六表の受注工事規模〔一件当りの単価〕は,いずれも大きい金額でなかったものと認められる)。

以上のとおりであって,右原告の主張は理由がない。

(四)  また,原告は「原告がその後法人に組織変更し,青色申告法人となった有限会社山手建設の昭和49年7月1日から昭和50年8月31日までの間の収入金額及び必要経費の実額(所得税法による計算に引き直したもの)によって計算すれば,必要経費率は,94.1%であり,昭和49年分の収入金額に右経費率を乗ずれば必要経費は2,304万0,161円となる。」旨主張する(被告の主張に対する認否と反論三2)。

しかし,原告が主張する有限会社山手建設の必要経費率は,昭和49年7月1日から昭和50年8月31日までの間であり,年度の異なる昭和50年分が8か月も含まれているから,それが合理的であるというためには,昭和49年と昭和50年とでは必要経費算定の基礎となる経済情勢に変動がないことが必要であると解されるところ,前掲乙第20号証及び証人渡辺勝正の証言によれば,前記認定の類似業者5件の必要経費率は,昭和48年87.08%,昭和49年87.07%,昭和50年91.37%と推移し,特に,昭和49年と昭和50年とでは,昭和50年の方が右類似業者5件全部が必要経費率が著しく高くなっていることが認められ,昭和49年と昭和50年とでは経済情勢が変化していると推認されるのであって,原告の主張する推計方法の方が,本件推計方法に比べ,より合理性があるとは到底解することができない。

(五)  なお,昭和49年分の原告の事業所得は同年1月から6月までの分であるから,類似業者の分も同期間中の経費率を求めるのがより正確であると考えられるところ,前記(四)認定のとおり類似業者の平均経費率は昭和48年から昭和49年にかけ同一水準を維持していたが,昭和50年に悪化していることによれば,同業者の昭和49年の下半期の経費率は上半期の経費率と同一であるか悪化していたかのどちらかであったと考えられるし,前記(三)認定のとおり原告の経営は比較的安定していたこと等考えあわせれば,本件推計に当たり同業者の昭和49年分1年間の平均経費率によったことをもって原告に不利益な推計方法であるともいえない。

(六)  その他,本件推計方法の合理性失わせるに特段の事実を認めるに足る証拠はない。

(七)  そこで,前記当事者間に争いがない昭和49年分の収入金額2,448万4,763円に前記類似業者の平均経費率87.1%を乗じて,必要経費を213万2,629円(円未満四捨五入)と推計することができる。

3  そうすると,原告の昭和49年分の総所得金額は第五表当裁判所の認定欄記載のとおり337万0,776円となり,昭和49年分の更正処分は,右認定の総所得金額の範囲内でなされたものであるから,原告の所得を過大に認定した違法がある旨の主張は理由がない。

四  以上認定のとおり,本件各更正処分は,原告主張の違法事由は認められず,適法であることが明らかである。したがって,原告は,昭和48年分及び昭和49年分の各所得税につき過少申告していたことになり,過少申告加算税の本件各賦課決定処分も適法である。

五  よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笠井達也 裁判官 東畑良雄 裁判官 玉置健)

〈以下省略〉

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